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PRODUCTION NOTE 「ベルセルク」の神髄、大いなる恐怖の宴「蝕」。いよいよ描かれる、絶望のスペクタクル。

監督:窪岡 俊之

 第一部の冒頭で落ちて行く鳥が暗示したように、物語はついにある到達点に辿り着きます。ガッツ、グリフィス、鷹の団の者たちが互いに語っていた『夢』は、いったいどんな結末を迎えるのか。

 キーとなるのは、もちろん『蝕』のシークエンスです。『ベルセルク』という作品そのものの象徴でもあると言える、黄金時代篇で最も過激なこのスペクタクルを描ききるために、企画始動当初より演出や映像表現のトライ&エラーを重ねてきました。ここまでの画面設計では、映像や写真などを参考に現実世界のコントラストや色調を反映することでリアリティを付加してきたのですが、「蝕」という非現実の世界にはそれが通用しません。質感の出過ぎる3DCGの情報をどう間引いていくか、塗り絵でしかないセルにどう質感を加えるか-----画の情報量の制御が一筋縄ではいかず難関でしたが、粘りあるスタッフの尽力のおかげで、グロテスクの中にも美しさのあるブラボーな異空間を構築することができました。

 原作の三浦建太郎先生とミーティングを重ねていく過程で、『ベルセルク』は、ポール・バーホーベン監督の作品に影響を受けているのだと教えていただき、自分の中でいろいろなものが繋がりました。幼少期、オランダで悲惨な戦争の実態を目の当たりにしたバーホーベンは、人の死がいかに無残なものであるかを刷り込まれたと言います。僕は彼の映画を見るたびに、「死はそんなに美しいものではない、映画で嘘を描くな!」と叱られているような気がしてなりません。高度成長期の日本にのほほんと生まれた自分ですが、映画『ベルセルク』もバーホーベン監督へのリスペクトが強くある作品だと白状しておきます。

 長きに渡る制作期間を経て、三部作のクライマックスをついに形にすることが出来たという充実感、開放感、寂寥感と虚脱感……様々な想いが胸を去来しています。我々スタッフの渾身の一発をズシリと受け止めて下さい。皆さんの感想をお聞かせいただければ嬉しいです。よろしくお願いいたします。

凄惨なるクライマックス「蝕」を描き尽くす作画の熱量

『ベルセルク』というダークファンタジーの真骨頂、原作ファンが待ち望む黄金時代篇のクライマックス「蝕」のシークエンスがついにベールを脱ぐ。数百の鷹の団の者が異形に喰われていく絶望、大切な者が陵辱される悲痛—本作では生々しいバイオレンスとエロスを抑えることなく真摯に描き尽くした後に、上映用規制値へ向けて調整を重ねるという工程を踏んでいる。総作画監督の恩田尚之はその作画への熱量について「たとえば、ガッツが魔物に喰われた自分の腕を斬り落とすシーンは、同じような心境になって描いているので肩に力が入り、修正の線自体もすごく濃く強くなっています。少しでも作業を中断させると、このテンションに戻れなくなってしまうので、数ヶ月はなるべくスタジオでデスクに向かっていました」と語る。本編112分のうち「蝕」のシークエンスはおよそ37分に及ぶ。さらに本編総カット数1655cutに対して「蝕」は690cutを割き、綿密に構築している。

異彩を放つシラットのバトルシークエンス

惨劇が続く第三部『降臨』の中で異色と言えるのが暗殺集団バーキラカによる鷹の団襲撃だ。第一部より中世西洋剣術をベースにシリアスな剣戟をリアリスティックに描写してきたアニメーションディレクターの岩瀧智が、ここではバーキラカ首領のシラットの操るウルミン(インド古武術カラリパヤットの武具ウルミをモチーフにした鞭状の長剣)をアニメならではの外連味で表現。「シラットはあえて漫画的表現に振り切って、派手に描いています」を岩瀧は語る。シラット役の中村悠一は、キャラクターの装いに合わせた声のこもりを表現するため、マスクを着けてアフレコに臨む。クールでスタイリッシュな芝居から、コミカルな芝居まで、監督らの提案に合わせ様々なニュアンスを持つシラットが中村から飛び出した。「劇場版の雰囲気に合わせて比較的シリアスな部分を拾った方が良いのかな?と思ったのですが、シラットは別とのことで(笑)楽しい雰囲気も含んで演じました。マスクは録音の名倉さんと相談して二枚重ねで行いました」と中村は語った。また、髑髏の騎士vsゾッドのバトルは、人間同士の戦闘描写が主である黄金時代篇において初めての人外対決となる。原作では会話のみで構成されていたこの場面をバトルシークエンスへと描き出すために、原作を隈無くチェックし、ふたりが相見えたときのシミュレーションをコンテ上で繰り返した。桁外れの力を持つ者同士のぶつかりは、重量感あるフル3DCG描写で構築され、さらに現実にはありえないスピードがつけられた。

抗えぬ宿命に息を吹き込むキャストたち

アフレコは2012年8月から9月にかけて行われた。これまで分割収録していた鷹の団主要キャスト(「蝕」に巻き込まれる者)が初めてスタジオに揃い最期を共にした。ジュドー役の梶裕貴は「鷹の団のみんながスタジオに集まったかと錯覚したほど、みなさんそのままでした」と語る。ガッツとキャスカの愛あるセックスシーンから、悲惨な姿となったグリフィスとの再会、そして「蝕」の中でキャスカを冒すフェムト(グリフィス)という怒濤の展開を演じ切った、ガッツ役の岩永洋昭、グリフィス役の櫻井孝宏、キャスカ役の行成とあの一日も濃密だった。「家で映像を見ながら台本を読んでいて、それだけでパワーを持っていかれました。第三部は死ぬきでやりました」(岩永)「グリフィスに寄り添おうとすると落ちてしまいそうになる……だからこそ、「捧げる」というセリフを大切に演じたいと思いました」(櫻井)「なんだかグラグラしています。自分が思ってるよりもずっと、自分の心がキャスカと一緒になっているんですね」(行成)と三人は語る。その熱演に監督の窪岡も感嘆する。「岩永さんは粗野な中に繊細さがあって、本当にガッツそのもの。櫻井さんはいつものように完璧でした。気高いグリフィスが落ちてゆく演技は、ファンの心理を掻きむしることでしょう。行成さんも安定感抜群。ただ、キャスカの最後がいたたまれなくて……。収録後は持ち前の明るさで笑ってくれたのが救いでした。それから、あえぎ声も絶品でしたね。あれは……いいです(笑)」

総上映時間287分、『ベルセルク 黄金時代篇』堂々完結

2007年の映像化構想開始から第三部『降臨』の完成までのおよそ5年の製作期間を経て、総上映時間287分にも及ぶ『ベルセルク 黄金時代篇』三部作がいよいよ完成となった。初号鑑賞後の原作者・三浦建太郎は「最近のアニメ作品の主流とはまったく違った、時代に鉤爪を立てる作品だと思う。観る人の心に、どんなトラウマを植え付けてしまうのか、興味をもって観察したい」とコメントを残している。

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